人生初ラリーが、いきなり全日本。MORIZO Challenge Cupに挑んだ若者達の初陣はどうなった!?

 今年から始まったMORIZO Challenge Cup(MCC)は全日本ラリー選手権全8戦で開催される新たなシリーズだ。トヨタGRヤリスによって競われ、車両規定についてはワンメイクタイヤの採用をはじめ、使用できるパーツについても制限が設けられるなど、イコールコンディションが図られた“腕で勝負!”のシリーズとなっている。

 最大の特徴は原則として参加資格が25歳以下(一部条件付きで29歳以下)という年齢制限があること。シリーズ年間成績優秀者には、WRCを戦うフィンランドのTOYOTA GAZOO Racing World Rally Teamによるラリー講習へ参加する権利が与えられ、その結果次第では、世界への道が開けてくるという、夢に溢れた若手育成プロジェクトだ。

 全日本ラリー開幕戦ラリー三河湾で行われた初戦は、その全日本で優勝経験のある29歳の山田啓介が、TOYOTA GAZOO Racingラリーチャレンジで強豪ドライバーとして名をはせた27歳の貝原聖也とのデッドヒートを制して優勝。この二人は同時にエントリーしている全日本のJN2クラスでも1-2を独占と、堂々たる成績を残した。

 今回のMCCには8名がエントリーしたが、その内、1名は車両の関係で不参加となったため、実質的には7名によるバトルとなった。そしてその内の3名が、何とこの一戦で初めてラリーに挑むラリー未経験者だった。

 その一人、KANTAは今回最も注目された一人。ラリーの実績はゼロだったにも関わらず、トヨタのWRCワークスドライバー、勝田貴元が直々に結成したTK motorsportチームのドライバーに抜擢されたからだ。

 ラリーは素人ながら、KANTAは昨年、フォーミュラ・ドリフト・ジャパン(FDJ)で、スポット参戦したWRCチャンピオンのカッレ・ロバンペラを下した唯一の日本人となり、シリーズチャンピオンを獲得したドリフト王者だ。さらに昨年秋に開催されたJAFカップオールジャパンダートトライアルでも全日本ダートラの並み居る強豪達を下して優勝した。

昨年、23歳という若さでフォーミュラ・ドリフト・ジャパンの王者に輝いたKANTA。カッレ・ロバンペラを下した走りを評価した勝田貴元が、自ら結成したチームのドライバーに抜擢した。

 そんなKANTAの強力な味方はコ・ドライバーを務める保井隆宏。海外ラリーの経験も豊富な日本を代表するコ・ドライバーの一人だ。今回のラリーの主催者であるモンテカルロオートスポーツクラブ(MASC)が昨年まで主催してきた新城ラリーの名物ステージ、雁峰(がんぽう)林道よりさらに難しい、と全日本ラリーのレギュラー陣も口を揃えた今回の林道ステージを走り切るには、欠かせない援護役となると見られていた。

コ・ドライバーを務める保井隆宏は、サイドシートから様々なアドバイスを与えることでドライバーの速さを引き出す、その指導力も高い評価を得ている。

 今回のラリーでは、初日のLEG1でMCCの2台が早くもリタイヤするという波乱の展開の中で、KANTAは完走5台中4位という成績で、まずは折り返す。翌日のLEG2は10km超の林道SSが4本も待ち構えるという、ルーキーには試練の一日となったが、2本の林道を走り終えてサービスに戻ってきたKANTAは、「想像してはいたけど、やっぱりラリーは難しい。昨日よりはいいペースで走れていると思うし、4WDの雰囲気も掴めてきたけど、林道はかなり危ない。狭くてクルマも全然、横にできないし(笑)。保井さんのお陰で何とか走り切れている感じです」と率直にコメントした。

 KANTAがその才能の片鱗を見せたのはSS9の再走となったSS12。MCCのトップ争いを演じた2台に続く3番手のタイムをマークしたのだ。「走る前に保井さんからもらったアドバイス通りに走ったら、攻めることができて30秒もタイムアップできた。あぁ、(走り方で)こんなに違うものなんだな、って」とKANTA。10kmで30秒ということは1km当たり3秒もタイムアップした計算になる。「ひとつのコーナーでコンマ2秒とか上げるだけでも、その積み重ねでドンとタイム差が広がる。それがラリーなんだ、と痛感した」

 ドリフトとは比較にならないほどの長距離を走り終えたKANTAだが、その顔には疲労の表情は見えなかった。「10kmは長いと思わなかった。必死過ぎて、気づいたら終わっていた感じでした」と笑った。結果はルーキー勢最上位となるMCCクラス3位でゴールし、3位まで与えられるポイントも獲得と、上々の滑り出しとなった。
 
「早く次のラリーを走りたい。今回、掴んだものがあるので、次はもう少しイケると思う。貴元さんからも常にアドバイスをもらっているので、教わったことをちゃんと本番の走りに出せるようにしたいですね」と次戦を見据えた。

LEG2では林道SSで大きくタイムアップするなど、KANTAは、ラリードライバーとしても高いポテンシャルを垣間見せた。

 LEG1、スパ西浦モーターパークで行われたスーパーSSで速さを見せたのは星涼樹だ。そのSS3はMCCクラスで2番手。再走のSS5も3番手をマークと、トップグループと変わらぬスピードを見せた。二十歳の星はレーシングカートの世界で実績を残してきたドライバーだ。2019年には全日本カート選手権でシリーズ2位という成績を残しており、フォーミュラカーをドライブした経験もある。サーキット育ちの速さを、ラリーでも遺憾なく発揮した形だ。

全日本カートで高い実績を残し、スーパーFJやF4規格のフォーミュラのドライブ経験もある星。低ミュー路も時に待ち受けるラリーへの参戦は今回が初めてだった。

 だが林道では悪戦苦闘を強いられた。LEG1を終えてサービスに戻ってきた星は、「道が凄かった。“全日本でも、なかなかこういう道はないよ”、と周りの皆さんからも言われたので、かなり抑えめで走ったけど、それでも自分で踏めると思った所は踏んだつもりです。でも、SS8で大竹選手がコースアウトした場所は、彼のクルマが止まっていなければ、自分のクルマが“行ってた”と思う」と、綱渡りの走りだったことを明かした。
 
 LEG2、外からその走りを見ていても、星のペースは明らかに上がったように見えた。ラリーデビューの新人とは思えないアクセルの踏みっぷりで、3番手のタイムを連発した。「実は荒れて危ない道も結構好きなんです(笑)。今日はクルマにも慣れてきたので自分としても攻められたと思ったけど、ギャップでクルマを痛めたみたいで、サービスで見てもらったら、クルマのダメージが大きいので、午後のループは抑えるようにと言われました」
 
 そのオーダーには従うしかない。何といっても星が所属するのは、ラリーの世界を知り尽くす国内名門ワークスのCUSCO RACINGだからだ。SS12では、前述の通り大きくタイムを上げたKANTAに敗れたが、それでもSS13では再び3番手タイムをマークしてみせた。最終的にも3番手のタイムを残したが、LEG1のスーパーSSでミスコース判定を採られて3分のペナルティが加算されたため、4位でMCCの初戦を終えた。

「“もっと踏める、もっと踏める”と自分では思ったけど、そういう所は、コ・ドライバーの梅本(まどか)選手が抑えてくれた。メカニックさんも、クルマを直すために忙しくさせてしまったけれど、そのお陰で何とか無事、完走できました。ホントにチームに感謝です」とラリーを振り返った星が、特に今後の課題にあげたのがペースノートだった。

コ・ドライバーを務めるのは昨年、WRCラリー・ジャパンにも参戦した梅本まどか。血気盛んな若者に時に抑えることを教え、ゴールまで導いた。

「本当に危ないような所をしっかりとノートに入れるとか、より細かいノートを作っていけば、最後まで抑え続けなくてもいいような、メリハリのある走りができると思う。山田選手や貝原選手はそういうラリーができているんだろうなと思いました」。そしてKANTAとまったく同じ感想を語った。「よく分かりました。ラリーって、SSが長くなればなるほど差が広がる世界なんだ、って」。精度を増したペースノートが、どんな速さを引き出すか、次戦が楽しみだ。

ハイスピードのスーパーSSでは速さを見せた星。対照的なローアベレージの林道SSでもアグレッシブな走りを見せた。

 デビュー戦でラリーの手厚い洗礼を受けたのが最上佳樹だ。LEG1、2本目の林道SSとなったSS6でコースオフ。土手に当たってインタークーラーを損傷してしまい、デイリタイヤとなってしまったのだ。

「泥があったり、ギャップがあるような道で、ブレーキを踏んだ瞬間にクルマがあんなに止まらないとは思わなかった」と振り返った最上はジムカーナのドライバー。グリップする路面をハードブレーキングで一気にクルマを曲げていくのが常のジムカーナとは、「あまりにも違う。そもそもジムカーナのコースには土や葉っぱは落ちてないので(笑)。まったくの別物の世界」と、まずはラリーが何たるかを身を以て知る一戦となった。

 最上も全日本の世界では輝かしい実績を持つ一人だ。2022年には、全日本と地方選手権のトップスラローマーが一堂に会するJAFカップジムカーナでいきなり優勝を飾ると、翌年の全日本ジムカーナ選手権開幕戦でも優勝をさらった。最上が制したBC1クラスは、全日本の経験が長い熟練の技を持つ猛者が集うクラス。その中に飛び込んだ24歳の若者が、いきなり勝ち星をさらってしまったのだ。

全日本ジムカーナでは注目の若手として知られた最上だが、社会人2年目の今年は新たなチャレンジを決意。ラリードライバーとしても飛躍を狙う。

 今年もジムカーナを続ける予定だったが、MMCに参加するチームがオーディションをすると聞き、出てみたら選考を通った。そのFIT-EASY RacingはCUSCO Racingから長く海外ラリーに参戦し、アジア・パシフィックラリー選手権チャンピオンを獲得した炭山裕矢が監督を務める。今回、MCCを制した山田啓介がチームメイトになる。

所属するFIT-EASY Racingは、海外ラリーの経験も豊富な炭山裕矢(左)が監督を務める。コ・ドライバーの前川富哉(中)も普段はドライバーとしてラリーに参加中。サポートは分厚い。

 スタートは上々だった。コース前半にパイロンセクションがあるスーパーSSのSS2ではMCC2番手タイムをマーク。路面が安定した西浦のサーキットSSでも5番手、4番手とまずまずのタイムを残している。やはり鬼門は林道だったようだ。ただマシンを修復して出走した翌日のLEG2では、しっかりと難関の4本の林道SSを走り切った。SS9の再走となったSS13では、KANTA同様に大幅なタイムアップを遂げて学習能力の高さを見せた。

「でも今日も、攻めるというよりは、まずは帰ってくるというラリーだった」とゴール後の最上は悔しさを滲ませた。「もちろん危ない所は気をつけなければいけないんだけど、それをやり過ぎると、タイムはどんどん遅くなっていく。その“加減”を掴むのが難しい」という最上も、ラリーという競技が持つ怖さを思い知ったようだ。

マシン修復なったLEG2で再出走が叶った最上は、トータル40kmを超える林道SSをみっちり走り込んで経験を積んだ。

「色んな道をこれから走っていく上でも、クルマを壊して走れないということはやってはいけない。そうして走り続けていけば、ラリーストとしてはもちろん、モータースポーツドライバーとしての経験値は間違いなく上がると思う。ただラリーでも成績を上げていかなければ、意味はない。“何のために、いま自分はここにいるのか”、ということを、これからも忘れずに戦っていきたい」。温和な表情の中に、たしかな勝負師としての眼差しが輝いていた。

 三者三様の収穫があった今回のデビュー戦。彼らがトップ争いに絡んで来る日も、そう遠くない内に訪れそうだ。伸び代しかない、彼らの今後のチャレンジに期待していきたい。